光蓮寺ビハーラハウス(岩手) 投稿者:@hongannikiss [2019年9月28日] 

瞬間に立ち上がる地獄と極楽の様相

 今回は岩手県盛岡市にある光蓮寺ビハーラハウスの掲示板です。ビハーラとは、サンスクリット語で精舎、僧院、寺院あるいは安住・休養の場所を意味します。

 投稿された方のコメント欄には、「人生も地獄も自分でつくるときがあるから、同じ『じ』という文字からはじまるんだな」とありました。

 みなさんは「地獄」というと、どのような光景を思い浮かべますか?

 わたしたちが思い浮かべる地獄の光景は、平安時代に天台宗の僧侶である源信(恵心僧都/えしんそうず)が書いた『往生要集』の地獄の様子にほぼ由来しているといわれています。極楽浄土と対比する形でそこに描かれた地獄の様相は、非常に生々しく恐ろしい。8つの地獄にそれぞれ16の副地獄があるとし、ぜんぶで128の地獄が示されています。

 今から2年ほど前に「地獄絵ワンダーランド」という展覧会が東京・日本橋の三井記念美術館であり、鑑賞しました。そこには日本古来の地獄絵が展示してあり、気持ち悪いものも数多くありましたが、意外にも、若い女性のグループが楽しそうに見ていたのが印象的でした。その様子を見て、現在の世界では地獄というもの自体がファンタジーであり、リアリティを持たなくなっていることを実感しました。

 昔は地獄の話を聞き、地獄絵を見て震え上がった人が数多くいました。幼少期の白隠慧鶴(はくいんえかく)もそうしたひとりです。のちに臨済宗中興の祖となる江戸中期の禅僧ですが、幼い白隠は地獄のことを非常に恐れ、それが仏道に入るきっかけにもなったというのです。「地獄」にまつわる白隠の有名なエピソードがあります。

 ひとりの武士が白隠のところに来て、「地獄や極楽はあるのか?」と質問しました。そのときに白隠は「武士ともあろう者が死が怖くなったのか?そんなことを気にするとは全くの腰抜けだな」と言ったそうです。その発言に腹をたてた武士は刀を抜いて切りかかろうとした瞬間、「それ、そこが地獄じゃ!」と白隠は言いました。その言葉で我に返った武士は正座をして頭を下げ詫びるのですが、その時に「それ、そこが極楽じゃ!」と言ったそうです。

 このやり取りからうかがえることは、この世の中にも、自分の心次第で「地獄」や「極楽」が現出するということです。悲惨な事件や事故が起こった時によくその現場を「地獄絵」と表現しますが、わたしたち人間がこの世界の中で地獄を作り出すことが数多くあります。第2次世界大戦の強制収容所アウシュビッツもそうですし、広島や長崎で起こったことも間違いなく人類が作り出したリアルな地獄だといえるでしょう。

 遠い昔から、世界の至るところで死後の世界として地獄について語られてきました。そのような地獄の話や地獄絵を空想の産物として一笑に付すことは可能です。

 しかし、地獄をファンタジーとして捉えるのではなく、自分自身がこの世の中で地獄を創出し、それを体験する主体にもなりうることを自覚することが大切ではないでしょうか。

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